日本話し方センター社長・横田章剛のブログ

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2020年2月10日自分の過去のエピソードを掘り下げる


前回のブログでは、自分の中で話の材料を作り出す、ということについて書きました。

今回はその続きで、自分の過去の出来事を振り返ることはとても意味がある、ということについてお話します。



一般的に、人は自分のことについて、自分が知っていると思っているほどにはわかっていません。

その一つの例が、話し方教室で自己紹介を録画して再生した時の受講生の反応です。

・こんなに「え~」「あの~」が出ているとは思っていなかった

・自分では笑顔で話しているつもりなのに、全く笑っていなかった

どんな話し方をしているのか、人にどのように見られているのか、ということをわかっていなかった、という反応が一般的です。

でも、他の人はその人の話す様子を絶えず見て知っています。

知らないのは自分だけです。

この例のように、自分のことは案外わかっていないものです。

 

それは、自分の価値観、つまり何を大切に考え、何を気にしていないのか、などということについても、わかっているようでわかっていません。

随分前のことですが、こんなことがありました。

私の職場で企画の仕事をしている人がいました。

仮にTさんとしましょう。

残念ながら、Tさんは企画の仕事ができる、とは言えない人でした。

他の職場の方が活躍できるのでは、ということで、私がTさんと一緒にどういう仕事が適しているか、考えることになりました。

Tさんは、海外の大学でMBA(経営学修士)を取得していました。

そのこともあって、Tさんは自分は企画の仕事がしたい、と強く思っており、私にも何度もその話をしました。

そこで、私はTさんに小学校の頃から今までで、心に残っているうれしかったエピソード、辛かったエピソードを書いてくるようお願いしました。

人の価値観は、小さい頃からの具体的な出来事の中に隠れている、と思っているからです。

お願いしてから一週間くらいしてTさんが書いてきたものを見て、私はとても驚きました。

それは、見事に“英語”という軸で一貫していたからです。

小学生の時に通っていた英語塾の先生がとても好きで、英語が好きになり、大学もESSという英語を話すクラブに入っています。

更に、英語で勉強がしたい、ということで社会人になってから会社を辞めて海外に留学してMBAを取りました。

しかし、Tさんは、自分で書いたものを見ても、それまでの人生で“英語”がとても重要な要素だということに全く気付いていませんでした。

やはり企画をやりたい、と同じ話を繰り返していました。

おそらく、苦労してMBAを取得したことに強い誇りを感じており、その気持ちに支配されて他のことが考えられなかったのでしょう。

私が書いたものを示しながら、

「Tさんは英語を使った仕事をしたいんじゃないかな。」

と言うと、Tさんははじめて気付いたように、ハッとした顔をして、

「本当にそうかも知れませんね。全然気付きませんでした。」

その後、彼は英語を使って仕事ができる職に変わりました。

 

自分の価値観や性格をより適切に把握するために、Tさんが行ったような作業は有効だと思います。

人は、心が強く動いた時に、自身の価値観や性格が明確な形で顔を出します。

エピソードは、ほんの些細なものでもいいのです。

自分の心に残っていること自体が、自分にとっては大きな影響のあったことなのです。

それらをピックアップして、自分はこの時、何故こういう行動をしたのか、何故このように考えたのか、ということを掘り下げて考えると、意外な一面を見つけられます。

これは私も自分でやってみて体験したことです。

そして、それが今、私の話の材料になっていますし、自分を理解する上でかなり役に立っています。
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