日本話し方センター社長・横田章剛のブログ

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2020年6月5日適切な言葉遣いを意識する

在宅勤務が増えたことで通勤時間が減り、その分テレビを見る時間も少しだけ増えました。

そのため改めて気付いたことは、テレビで話している人の言葉遣いに変なものがある、ということです。

特に、政治家の記者会見や道行く一般の人へのインタビューなどで、幾つか気になる言葉遣いがあります。



 

その一つが「させていただく」です。

政治家にこの言葉を使う人がかなり多いのですが、私はこの言葉を聞く度に過剰なへりくだりを感じてしまいます。

「万全の対策を取らせていただくことといたします。」

「充分な手当をさせていただきたいと思います。」

このような使い方をよく耳にしますが、

「万全の対策を取ります。」

「充分な手当をいたします。」

で何の過不足もないと思っています。

 

池上彰さんもこの「させていただく」について、著書「伝える力2」で持論を展開しています。

少し抜粋してみます。

『「させていただく」は謙譲語に分類されますが、「そこまでへりくだらなくていいだろう」という場面でも、やたらにへりくだって謙譲語を使うことが多い印象を持ちます。(中略)
俳優さんが映画に出演することに決まったときなど、「この映画に出させていただくことが決まりました。とても光栄です。一所懸命にがんばらせていただきます。」などと言うことがあります。
こうした発言も気になりますね。
「この映画に出ることが決まりました。とても光栄です。一所懸命がんばります。」で充分に丁寧な言い方ではないでしょうか。』

 

回りくどい言い方をすると、聞き手はそれを頭の中で咀嚼しないといけません。

従って言葉はシンプルに言う方が伝わりやすくなります。

「させていただく」の過剰な使用は、不適切な表現というだけでなく、相手の立場に立った話し方にもなっていない、と思います。

 

また、最近「~かな、と思います。」という言葉もよく耳にするようになりました。

これは、道行く人のインタビューなどでよく聞かれます。

「まだ遠出をするのは恐いかな、と思います。」

「家にずっといるのはつまらないかな、という気がします。」

こうした話しも、

「まだ遠出をするのは恐いです。」

「家にずっといるのはつまらないです。」

と言った方が気持ちがストレートに伝わってよいでしょう。

この「~かな、と」というのも、「恐いの、恐くないの、どっちなの?」と考えさせてしまい、聞き手にストレスを感じさせる言い方です。

 

「させていただく」も「かな、と」も、適切に使えばよいのですが、上のような使い方は聞き手の立場に立てば好ましくありません。

こうした表現は、話し手が言い切ることにためらいを感じているから使われるのだと思います。

以前のブログでも書きましたが、私たちは言い切ることを避けるような話し方をよくします。

しかし、それでは自分の意思や考えを相手にきちんと伝えることができません。

また、上に触れたように、素直に理解できる表現ではないため、聞き手にストレスを与えてしまいます。

過剰な表現や曖昧な表現はできるだけ使わないように気をつけたいものです。
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